つい先日、ドローンを衝動買いしてしまった。というか、ドローンに魅せられてしまったといったほうがより適切な表現だろう。どんなドローンを買ったかというと、中国DJIの「Mavic Air」だ。DJIは世界最大手だから、ドローンを買うなら当然の選択ではある。しかし、こう言っては中国企業に失礼ではあるが、まさか中国メーカーのハイテク製品に物欲が爆発する日が来るとは思いも寄らなかった。
物欲が爆発した経緯はこうだ。私は自転車とカメラ、そして万年筆をこよなく愛している。特に自転車は古くからの趣味で、ロードバイクやマウンテンバイクなど4台のスポーツバイクを保有している。そして個人ブログなどを通じて多くの自転車乗りの皆さんと親しくなり、最近も自転車仲間とサーキット場を走る耐久レースに出場したり、サイクリストの聖地と呼ばれる瀬戸内海の「しまなみ海道」に出かけたりしている。
ドローンとの運命の出会いも自転車を通じてである。その日は仕事関係で知り合った自転車乗りの皆さんとのサイクリングで、同行したあるITコンサルタントが持ってきたのがMavic Airだった。この人は無類の新し物好き。ドローンを買ったという話を聞いた時、ドローンに全く興味が無かった私は「また、そんな物を買っちゃって」ぐらいにしか思わなかった。
「ドローンに全く興味が無かった」と書いたが、より正確に言えば、私はドローンに対してネガティブなイメージを持っていた。なんせドローンが日本で大きな話題となった、2015年に起こった一連の出来事の印象が悪い。DJI製のドローンが首相官邸に落下するなどの事件・事故が相次ぎ、ドローン規制法も制定された。操縦は危険だし、下手をすると不法行為にもなりかねない。図体もそれなりにデカくかさばる。コンパクトなモノを愛する私にとって、全く物欲の対象になり得なかった。
ところが、Mavic Airの実物と飛行を見せてもらって腰を抜かし、心を奪われてしまった。何度も失礼だが中国メーカーの製品なのにスタイリッシュで高級感があるし、コンパクトに折り畳めるマニアックさもいい。何よりも自動離陸機能により、視線近くの高さまでふわっと浮き上がる姿にしびれてしまった。後は「うわぁ、欲しい!」「なら木村さんも買ったら」「値段はいくら……それなら何とか買えそうだ」という流れである。
中国の製造業、ハイテク産業のレベル向上を実感
というわけで今、その人とは色違いのMavic Airが私の手元にある。購入に至るまでに半月もかからなかったのには、我ながら呆れてしまう。それだけ物欲の爆発ぶりが大きかったわけだが、改めて経緯を振り返ると「物に対する欲」だけではない気がする。ふわっと浮き上がり空中に静止するドローンに魅せられたのは、これまでに無い体験にコロッといってしまったからだ。消費トレンドとしてよく言われる「モノからコトへ」の「コト」の楽しさに魅せられたわけだ。
それに私の趣味の1つは先ほど書いたようにカメラ、写真撮影である。当然、ドローンを使った空撮という新たな体験への期待が高まる。Mavic Airのカメラは4K動画も撮れるので、ドローンの操縦や空撮がうまくなれば、テレビでよく観るような迫力ある空撮動画が撮れる(かもしれない)。そんな先の話はともかく、まだ2回しか飛ばしたことがない初心者の私でも、墜落する心配が無いのでドローン操縦という「コト」を十分に楽しめている。
墜落など事故のリスクがほとんどないことは、こうした楽しい体験の前提だが、Mavic Airに限らず今のドローンの安全性は飛躍的に高まっているようだ。実際、今はまだ「初心者モード」でMavic Airを飛ばしているが、どうやったら墜落させられるのか分からないほどだ。自動で離着陸できるし、自動で障害物を検知して衝突を回避してくれる。操縦をミスしてもレバーから手を離せば、その場でホバリングして静止するなど至れり尽くせりである。
それにしても、このドローンを通して中国の製造業、ハイテク産業のレベル向上を大いに実感している。いろいろと耳にはしていたが、聞くのと体感するのでは大違いだ。まさに衝撃的。日本製、あるいは韓国製の半導体やセンサーなども数多く使っているのだろうが、これだけの製品にまとめ上げる力は尋常ではない。こんな衝撃を受けたのは、日本のテレビメーカーが韓国サムスンに敗れるのを目の当たりにして以来かもしれない。
逆に言うと、なぜ日本のメーカーは世界市場をリードするようなドローンを造れないのだろう。断っておくが、業務用のドローンでは日本のメーカーもがんばっているとのことで、私が言っているのは消費者向けのドローンの話である。折り畳めるようなコンパクトで高機能な製品は日本メーカーのお家芸だったし、特に昔の日本のAV器機メーカーは全く新しい体験でワクワクさせてくれる新製品を数多く誕生させてきたではないか。
日本企業は消費者向けドローンでリスクを取れない
実は「なぜ日本のメーカーはこんなドローンを造れないのか」と思ったのは、サイクリングの際に初めてMavic Airを見せてもらった時のことだ。だが、購入して実際に飛ばしてみると「これは日本企業、特に大企業には無理だな」と思うようになった。DJIという中国のメーカーの技術レベルが高くて、日本企業は手も足も出ないという意味ではない。それどころか少なくともハードウエアだけなら同等レベルか、それ以上のものを造れるだろう。
問題はそこではない。実際にドローンを飛ばそうとすると、法律に違反せずに安全を確保できる場所を見つけるのが、思いのほか大変だと気付く。先ほど「どうやったら墜落させられるのか分からない」と書いたが、それはあくまでも操縦面での話だ。もし万一、モーターなどに故障が発生すれば墜落する恐れがある。だから周りに人がいるかどうかを確認せずに不用意に飛ばすと、大変な事態を招きかねない。
もちろん、これはユーザーが注意すべきことだ。だが、プロが操縦する業務用ドローンと異なり、不特定多数に広く販売する消費者向けドローンは製造元の企業にもそれなりのリスクとなる。しかも当初は「ドローンをどこまで自由に飛ばしてよいのか」といった法的なグレーゾーンもあった。そんな状況では、法的リスクや世論リスクを恐れ、石橋を叩いて渡るが常の日本企業、特に大企業はドローンで世界の消費者向け市場を獲るなんて芸当は不可能である。
極端な話、そのあたりの理屈はシェアリングサービスで日本企業が出遅れたのと同じかもしれない。例えば民泊は米エアビーアンドビー(Airbnb)が日本市場の開拓に乗り出した頃は、民泊やその仲介に関する法的リスクや世論リスクを恐れる日本企業の動きは鈍かった。企業が正しくあらねばならないのは当然だし、自社の製品やサービスが顧客や社会、そして自身に及ぼすリスクを適切に管理しなければならないのも当然だが、慎重すぎれば新しいものを生み出せない。
ドローンに話を戻すと、日本企業にもぜひ消費者向けドローンの開発に力を入れてほしいものだ。私が愛する自転車やカメラ、万年筆をはじめ、従来の製品カテゴリーでは日本企業のプレゼンスは大きい。ところが、ドローンをはじめ最近新たに誕生した製品カテゴリー(大半がデジタル製品)では、リスクを過剰に恐れるのか、マーケティングのやり方が分からないのか知らないが、日本企業に存在感は薄い。
「別にドローンにこだわる必要な無いじゃないか」という意見もあるだろうが、消費者にとっては従来にない体験のワクワク感が半端ない。それに「空飛ぶカメラ」、あるいは「空飛ぶスマホ」としての将来の成長も楽しみだ。今はラジコンヘリコプターの変種にすぎないかもしれないが、将来は「空飛ぶロボット」に進化するのも確実である。そう言えば、先行していたはずのヒト型ロボットでも日本企業のプレゼンスは薄れているから、ロボット産業の観点からもドローンでがんばってほしいところだ。
そしてもう1つ思うのは、ぜひとも日本企業にDJIなど海外メーカーのドローン製品を徹底的に模倣してもらいたいということだ。日本の製造業はかつて「猿まね」と皮肉られようが、徹底的に欧米製品を模倣し続けて高品質な製品を造り出し、その後、オリジナルな製品も生み出せるようになった。その歩みは韓国や中国のメーカーも全く同じ。ところが今の日本企業は新しい製品サービスや市場を創る力だけでなく、模倣する力も失った気がしてならない。
ドローンだけに限った話ではないが、欧米、そして中国や韓国の企業を徹底的に模倣したうえで、日本企業のオリジナリティを加えた製品を出して、私の物欲を再び大爆発させてくれることを切に願う。

