米マイクロソフト(Microsoft)の透過型ヘッドマウントディスプレー(HMD)「HoloLens」は、人類の知覚を拡張するものだ。そう思わせるアプリケーションに出会った。マイクロソフトリサーチ(MSR)が開発した「Cardiolens」だ。
CardiolensはHoloLensを着けて人の顔をのぞき込むと、その人の心拍数が分かるアプリケーションだ。肉眼では全く見極めることができないが、我々の顔色は血管に血液が流れるタイミングで、微妙に変化しているのだという。CardiolensはHoloLensのカメラが撮影した人の顔色のごく微妙な変化を捉えて脈拍を検知し、心拍数を割り出す。
気分はドラゴンボールの「スカウター」
実際にHoloLensを着けてCardiolensを試してみた。HoloLensはレンズの部分が透過型のディスプレーになっている。人の顔をHoloLensを着けてのぞき込むと、Cardiolensの顔認識機能によって顔の部分がハイライト表示され、頬の部分が画面上に赤く色づけされる。これは頬の下を流れる血流の勢いを示すもので、脈拍に合わせて赤色の面積が広がったり縮んだりする。しばらくすると人の顔の上部に脈拍を示す数字が表示される。
気分としては、完全にドラゴンボールの「スカウター」(相手の戦闘力を測る作中の道具)だ。童心に返ってドラゴンボールごっこを楽しむのもいいのだが、実用的な使い方も既に考案されている。例えば臓器移植手術の最中に使えば、移植した臓器に血液が流れているかを臓器に触れることなく検出できるという。
「怒っているのか、それともリラックスしているのか。人の感情は理解できるのか?」。Cardiolensを開発したMSRのダニエル・マクダフ(Daniel McDuff)研究員に聞いたが、そうした機能はまだ無いそうだ。将来、人の感情と心拍数の連動パターンを機械学習などで割り出せるようになれば、「あの人、今は機嫌が悪そうだから、話しかけるのは後にしておこう」といった使い方ができるかもしれない。
MSRのマクダフ研究員は、「カメラが撮影した画像から脈拍を検出する技術は以前から存在する。Cardiolensのポイントは、その技術をHoloLensに統合したことだ」と解説する。
確かに日本でも富士通研究所が2013年3月に「顔の画像からリアルタイムに脈拍を計測する技術を開発」というプレスリリースを発表している。電通が2015年から公開する「Pace Sync」というスマートフォンアプリも、カメラで顔を撮影すると心拍数が分かる。こちらは旭化成が開発した脈波検出技術を使っているのだという。
以前から存在する技術ではあるが、HoloLensのようなウエアラブルデバイスで利用できるようになることで、脈拍を検出する技術があたかも人間の知覚として備わったかのような気分になる。
通常の人間が持ち得ない知覚を備えた人間――。物語の世界では、そうした人間を超能力者と呼ぶ。人間はHoloLensのようなデバイスを身に付けることで、超能力者に進化するのではないか。Cardiolensを使ってみて、そんな考えすら頭をよぎった。
プライバシー侵害の懸念を悪化させる恐れも
もっとも、「HoloLensを着けた人の前に立ちたくない」と思ってしまったのも事実である。顔色を読まれるのは仕方ないとして、顔色を変えないように努力しても、カメラが捉えた脈拍から心の動揺を見透かされるのは、あまり気持ちの良いものではない。
米グーグル(Google)がカメラ付きのメガネ型ディスプレー「Google Glass」を発表した際も、プライバシー侵害を懸念する声が多数上がった。当時のもっぱらの懸念は盗撮だったが、画像から得られる情報や、HMDに搭載されるセンサーの種類が増えることで、プライバシー侵害の深刻度はさらに高まる恐れがある。
物語の世界でも、超能力者は通常の人間に気味悪がられるのが常である。カメラなどのセンサーを備えたHMDのポテンシャルは大きいが、はたして人間はHMDを常用するようになるだろうか。少し疑問に感じている。

